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会社員として働きながら副業を始めると、どこかで「開業届は出したほうがいいのだろうか」と考えることになります。ところが調べてみると、「出さないといけない」と書かれた記事もあれば「出さなくても問題ない」と書かれた記事もあって、かえって迷います。
この記事では、副業で開業届を出すべきかどうかを判断する基準と、2026年から変わった提出期限、そして開業届よりも先に期限が来る手続きについて整理します。
先に結論の方向だけ書いておきます。開業届そのものは、2026年から提出を急ぐ必要がなくなりました。急ぐ必要があるのは開業届ではなく、その周りにある別の手続きのほうです。
※この記事は一般情報の整理です(2026年8月時点)。個別の判断は税理士、所轄の税務署、お住まいの市区町村、ハローワークにご確認ください。
副業でも開業届が必要になるのは、どんな場合か
開業届の対象は、事業所得・不動産所得・山林所得を生ずべき事業を開始した人です。副業をしている人全員ではありません。
開業届の正式な名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」です。根拠は所得税法にあります。
居住者又は非居住者は、国内において新たに不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を開始し、又は当該事業に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものを設け、若しくはこれらを移転し、若しくは廃止した場合には、財務省令で定めるところにより、その旨その他必要な事項を記載した届出書を、その事実があつた日の属する年分の所得税に係る確定申告期限までに、税務署長に提出しなければならない。
所得税法 第229条
国税庁の手続案内も、対象者を「新たに事業所得、不動産所得又は山林所得を生ずべき事業の開始等をした方」としています。
つまり、副業をしていること自体が条件ではありません。その副業から得ている所得が、事業所得(または不動産所得・山林所得)に当たるかどうかが分かれ目になります。
副業の所得は「雑所得」に区分されることがある
国税庁は所得を10種類に区分していて、雑所得の例としてこう挙げています。
雑所得とは、上記利子所得から一時所得までの所得のいずれにも該当しない所得をいいます。(中略)(3)副業に係る所得(原稿料やシェアリングエコノミーに係る所得など)
国税庁 タックスアンサー No.1300 所得の区分のあらまし
副業の所得が雑所得に区分される場合、その副業については開業届の対象になりません。ここが「出さなくても問題ない」と書かれる記事の背景です。
罰則の有無で判断すると、かえって損をすることがある
所得税法の罰則は第238条から第243条までに置かれていますが、その中に第229条違反を罰則の対象にする規定は見当たりません。「出さなくても罰則がない」と説明されるのはこのためです。
ただし、罰則の有無を判断の軸にすると、この記事の後半で扱う期限を見落とします。開業届そのものより、開業届と同じタイミングで判断すべき手続きのほうに、実際の損得があります。
事業所得と雑所得は、何で分かれるのか
判定の主軸は、その活動が社会通念上、事業と称するに至る程度で行われているかどうかです。
副業記事でいちばん誤解されているところなので、国税庁の通達を原文で確認します。
(注) 事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうかで判定する。
なお、その所得に係る取引を記録した帳簿書類の保存がない場合(その所得に係る収入金額が300万円を超え、かつ、事業所得と認められる事実がある場合を除く。)には、業務に係る雑所得(資産(山林を除く。)の譲渡から生ずる所得については、譲渡所得又はその他雑所得)に該当することに留意する。
所得税基本通達 35-2(業務に係る雑所得の例示)
「300万円以下なら雑所得」とは書かれていない
この通達を「収入300万円以下なら雑所得」と要約している解説を見かけますが、原文はそう言っていません。300万円という数字は、帳簿書類の保存がない場合に雑所得とする扱いから除かれる条件として出てきます。
読み解くと、次の2つを言っています。
- 帳簿書類の保存がない場合
原則として業務に係る雑所得に当たる。ただし収入金額が300万円を超え、かつ事業所得と認められる事実がある場合は除かれる - 帳簿書類の保存がある場合
この(注)の後段は当てはまらない。前段に戻って、社会通念上事業と称する程度かどうかで判定される
逆に言えば、帳簿をつけていれば自動的に事業所得になる、というものでもありません。判定の主軸はあくまで活動の実態のほうにあります。
白色申告でも、記帳と帳簿書類の保存は必要
「帳簿は青色申告をする人だけのもの」と思われがちですが、国税庁の記載要領には次のように書かれています。
(注) 事業所得、不動産所得又は山林所得を生ずべき業務を行う全ての方(所得税及び復興特別所得税の申告の必要がない方を含みます。)は、記帳と帳簿書類の保存が必要となっております。
国税庁「個人事業の開業・廃業等届出書」記載要領
申告が要らない規模であっても、記帳と保存は求められています。そして前の項で見たとおり、帳簿書類の保存がないこと自体が、所得区分の判定に影響します。
2026年から、開業届の提出期限が変わった
2026年1月1日以後に開業した人の提出期限は、その年分の所得税の確定申告期限までです。
この記事を書いている時点で、ここがいちばん情報の更新が追いついていない部分です。
令和8年1月1日以後の開業は「その年分の確定申告期限まで」
前に引用した所得税法第229条は、提出の期限を「その事実があつた日の属する年分の所得税に係る確定申告期限までに」と定めています。国税庁の手続案内も、届出書の記載要領も、同じ表現です。
2 この届出書は、事業の開始、廃止等の事実があった日の属する年分の所得税の確定申告期限までに納税地を所轄する税務署長に提出してください。
国税庁「個人事業の開業・廃業等届出書」記載要領
2026年(令和8年)中に副業を始めた場合、開業届の提出期限は2027年(令和9年)3月15日ということになります。
2025年12月31日までの開業は、これまでどおり1か月以内
この改正には経過措置が置かれています。
新所得税法第二百二十九条又は第二百三十条の規定は、それぞれ令和八年一月一日以後に生ずる新所得税法第二百二十九条に規定する事実又は新所得税法第二百三十条に規定する事実について適用し、同日前に生じた旧所得税法第二百二十九条に規定する事実及び旧所得税法第二百三十条に規定する事実については、なお従前の例による。
所得税法等の一部を改正する法律(令和5年3月31日法律第3号)附則第10条
同じ法律の附則第1条第6号で、この改正の施行日が令和8年1月1日と定められています。整理すると次のとおりです。
| いつ開業したか | 開業届の提出期限 | 具体例 |
|---|---|---|
| 2026年1月1日以後 | その年分の所得税の確定申告期限まで | 2026年に開業 → 2027年3月15日 |
| 2025年12月31日以前 | 事実があった日から1か月以内 | 従前の例による |
解説記事には、まだ古い期限が残っている
この改正は、解説記事への反映が進んでいません。編集部が2026年8月に「副業 開業届」の検索結果の上位9本を調べたところ、提出期限に触れていたのは7本でした。そのうち改正後の期限を書いていたのは1社(2記事)だけで、残る5本は「開業日から1か月以内」のままです。
古い期限を前提にすると、「もう1か月を過ぎてしまったから、今さら出しても遅い」という誤った判断につながります。期限を過ぎたと思っている人ほど、いま確認する価値があります。
急がなくてよくなったのは開業届だけ。「2か月以内」は2つ残る
開業届の期限は緩みましたが、1月16日以後に業務を始める場合の青色申告の申請と、離職後に事業を始める場合の雇用保険の特例には、いまも2か月以内の期限があります。
ここがこの記事でいちばんお伝えしたい部分です。開業届の期限が確定申告期限までになったことで、「開業まわりの手続きは急がなくていい」と受け取ってしまうと、期限のあるほうを落とします。
1月16日以後に始めたなら、青色申告の申請は2か月以内
青色申告をするには、開業届とは別に承認の申請が必要です。その期限は所得税法で定められています。
その年分以後の各年分の所得税につき前条の承認を受けようとする居住者は、その年三月十五日まで(その年一月十六日以後新たに同条に規定する業務を開始した場合には、その業務を開始した日から二月以内)に、当該業務に係る所得の種類その他財務省令で定める事項を記載した申請書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。
所得税法 第144条
開業届の期限は動きましたが、この2か月は動いていません。1月16日以後に副業を始めた場合、青色申告を使いたい年の申請期限は、その業務を開始した日から2か月以内です。
なお、青色申告ができるのは不動産所得・事業所得・山林所得のある人と定められています(所得税法第143条)。副業の所得が雑所得に区分される場合、青色申告は使えません。
雇用保険の「受給期間の特例」も、2か月以内
会社を辞めて副業を本業にする場合に関わる話です。開業届を出すと失業手当を受けられなくなる、という説明はよく見かけますが、その先に制度があります。
離職日の翌日以後に事業を開始等した方(事業を開始した方・事業に専念し始めた方・事業の準備に専念し始めた方)が事業を行っている期間等は、下記の要件を満たす場合、最大3年間受給期間に算入しない特例を申請できます。
ハローワークインターネットサービス「基本手当について」
要件はいくつかありますが、事業の開始を確認する客観的資料として、開業届の写しが名指しで挙げられています。そして、この特例の申請期限は、事業を開始した日・事業に専念し始めた日・事業の準備に専念し始めた日の翌日から2か月以内です。
受給できるかどうかの判断はハローワークが行います。要件に当てはまるかは、住所または居所を管轄するハローワークにご確認ください。
開業届と青色申告承認申請書は、無料のサービスでも作れる
開業届は国税庁の様式に記入して税務署へ提出する書類で、e-Taxでも書面でも出せます。書き慣れていない場合は、必要な項目を入力すると書類ができるサービスもあります。
- マネーフォワード クラウド開業届
「開業届」と「青色申告承認申請書」を作成できるサービスです。公式サイトでは完全無料で利用できると案内されています。この記事で見たとおり、青色申告を使うなら申請書のほうが先に期限を迎えます。2つをまとめて作れる形なら、片方を忘れにくくなります - 弥生のかんたん開業届
開業届を含む必要書類を作れるサービスです。公式サイトでは登録およびサービスの利用料金は全て無料と案内されています
どちらも会員登録が必要です。登録だけで止めず、書類を作成して提出するところまで進めてください。
帳簿づけをどうするかも、この時点で決めておく
青色申告を選ぶ場合、帳簿の記帳と保存が前提になります。前に見たとおり、白色申告でも記帳と保存自体は求められます。副業を始めた時点で、どうやって記録を残すかを決めておくと、確定申告の時期に慌てずに済みます。
開業届を出すと、何が変わるか
開業届そのものより、事業として整理し、あわせて必要な申請を出すことで使える制度のほうに実益があります。
開業届は、提出しただけで税額が下がる書類ではありません。実益は、開業届を出したうえで使える制度の側にあります。
- 青色申告特別控除
正規の簿記の原則により記帳し、貸借対照表と損益計算書を確定申告書に添付して期限内に提出した場合、最高55万円。電子帳簿保存またはe-Taxによる電子申告を行っている場合は最高65万円(国税庁 タックスアンサー No.2070) - 純損失の繰越しと繰戻し
青色申告者は、損失額を翌年以後3年間にわたって繰り越して各年分の所得金額から控除できます - 屋号の名義での銀行口座の開設
金融機関によっては、屋号を含む名義の口座を開設できる場合があります。必要書類は金融機関ごとに異なります - 小規模企業共済への加入
加入の要件は制度側で定められています。詳細は独立行政法人中小企業基盤整備機構の案内をご確認ください
金額面の効果がいちばん大きいのは青色申告特別控除ですが、これは開業届だけでは使えません。前の章で見たとおり、青色申告承認申請書を期限内に出しておく必要があります。
出す前に確認しておきたいこと
個別の確認が必要になりやすいのは、雇用保険・扶養・勤務先の規程の3つです。
失業給付は「失業の状態」であることが要件
ハローワークは、基本手当の受給要件をこう説明しています。
ハローワークに来所し、求職の申込みを行い、就職しようとする積極的な意思があり、いつでも就職できる能力があるにもかかわらず、本人やハローワークの努力によっても、職業に就くことができない「失業の状態」にあること。
ハローワークインターネットサービス「基本手当について」
事業を始めることとこの要件との関係は、個別の事情によって判断されます。前の章で触れた受給期間の特例もあわせて、ハローワークにご確認ください。
扶養は、制度ごとに条件が違う
健康保険の被扶養者の条件は、加入している健康保険の運営者が定めています。税の扶養とも条件が異なります。加入している健康保険の運営者に確認するのが確実です。
勤務先の規程を先に読む
副業そのものを認めるかどうか、認める場合に届け出が必要かどうかは、勤務先の就業規則などで定められています。開業届の話に入る前に、まずここを確認してください。
20万円で判断できるのは、所得税だけ
所得税の確定申告が不要でも、住民税の申告は別に定められています。
副業の記事でよく出てくる「20万円」は、所得税の確定申告についての基準です。国税庁は、給与所得者のうち確定申告をしなければならない人を次のように示しています。
2 給与を1か所から受けていて、かつ、その給与の全部が源泉徴収の対象となる場合において、各種の所得金額(給与所得、退職所得を除く。)の合計額が20万円を超える人
国税庁 タックスアンサー No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人
住民税の申告には、同じ基準が置かれていない
住民税の申告は地方税法で定められていて、申告しなくてよい人の範囲がこう書かれています。
ただし、(中略)給与(中略)の支払を受けている者で前年中において給与所得以外の所得又は公的年金等に係る所得以外の所得を有しなかつたもの(中略)並びに所得割の納税義務を負わないと認められる者のうち当該市町村の条例で定めるものについては、この限りでない。
地方税法 第317条の2第1項
申告が要らないとされているのは「給与所得以外の所得を有しなかった」人です。副業の所得があれば、この範囲から外れます。所得税の確定申告が不要な場合でも、住民税の申告は原則として必要になります。
ただし、条文には「所得割の納税義務を負わないと認められる者のうち当該市町村の条例で定めるもの」という定めもあります。実際の扱いは市区町村によって異なるため、お住まいの市区町村にご確認ください。
勤務先に知られるかどうかも、住民税の仕組みに関わる
給与から住民税が天引きされる仕組みを特別徴収といいます。副業分の住民税をどう徴収するかについては、地方税法に次の定めがあります。
前項の給与所得者について、当該給与所得者の前年中の所得に給与所得以外の所得がある場合においては、市町村は、当該市町村の条例の定めるところによつて、当該給与所得以外の所得に係る所得割額を(中略)特別徴収の方法によつて徴収することができる。ただし、第三百十七条の二第一項の申告書に給与所得以外の所得に係る所得割額を普通徴収の方法によつて徴収されたい旨の記載があるときは、この限りでない。
地方税法 第321条の3第2項
副業分の住民税を給与からの天引きに上乗せするかどうかは市町村の条例によること、そして申告書に普通徴収を希望する旨の記載があるときは上乗せしないこと、が定められています。
ただし、これで必ず知られないと言い切れるものではありません。運用は市区町村によって異なりますし、勤務先が副業を把握する経路は住民税だけではありません。取扱いはお住まいの市区町村に、副業の可否は勤務先の規程にご確認ください。
開業届で迷いやすいのは、住所の欄
書き方でつまずくのは、自宅の住所を書くかどうかという場面です。
開業届には納税地を記載します。自宅で副業をしている場合、通常は自宅の住所を書くことになります。ここで、自宅の住所を事業用に使うことに抵抗を感じて手が止まる人がいます。
住所をどうするか、バーチャルオフィスの住所を使えるかについては、納税地の考え方とあわせて別の記事で整理しています。
まとめ
副業で開業届を出すかどうかは、次の順番で考えると整理しやすくなります。
- その副業の所得が事業所得に当たるか
対象は事業所得・不動産所得・山林所得。判定の主軸は、社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうか - 青色申告を使うか
使うなら青色申告承認申請書が必要。1月16日以後に業務を始めた場合は、その日から2か月以内。雑所得では使えない - 雇用保険に関わる状況か
離職後に事業を始める場合、受給期間の特例の申請期限は事業開始等の翌日から2か月以内 - 住民税と勤務先の規程を確認したか
所得税の申告が不要でも住民税の申告は原則として必要。副業の可否は勤務先の規程による
開業届そのものの期限は、2026年1月1日以後の開業について、その年分の確定申告期限までになりました。急ぐ必要があるのは開業届ではなく、その周りにある2か月以内の手続きのほうです。
制度の細かい当てはめは、所轄の税務署・お住まいの市区町村・ハローワーク、そして税理士にご確認ください。
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この記事を書いた人
「経営を、もっとシンプルに。」を掲げるミニマル社長の編集部です。運営は合同会社スネッケ(2022年設立)。起業当初は代表がひとりで立ち上げ、いまはWebサイト制作を本業に、SEO・広告などのWebマーケティング全般、近年はAIの活用まで実務で扱っています。基本的な知識や情報を整理して伝えるだけでなく、自分たちが実際に使ってみて分かったこと、つまずいたこと、その上で何を選んだのかまで、できるだけそのまま書いていきます。

