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領収書とクレジットカードの明細を前にして、手が止まる。「これは会社の経費にしていいんだろうか」。
法人にしたあと、たいていの一人社長が最初にぶつかるのがここです。個人事業主のときと同じ感覚で使っていたものが、急に判断のつかないものになる。自宅の家賃、スマートフォン、車、一人で食べた昼食。
この記事では、経費にできるものを勘定科目の順に並べるのではなく、一人社長の生活と会社が混ざりやすい場所の順に整理します。あわせて、編集部が実際にどう線を引いたかも書きます。
この記事は一般的な情報の整理です(2026年9月時点の法令等に基づきます)。個別の取引が経費になるかどうかは事実関係によって変わります。最終的な判断は、顧問税理士や所轄の税務署にご確認ください。
経費になるかは、科目ではなく「説明がつくか」で決まる
経費になるかどうかを分けているのは、勘定科目の名前でも金額の大きさでもありません。その支出を「会社の仕事のために使った」と他人に説明でき、その説明を裏づける記録が残っているかどうかです。
これは感覚的な話ではなく、通達にそう書かれています。法人が役員に対して支出したもののうち、給与を支給したのと同じ効果を持つものを列挙した部分に、次の一文があります。
役員等に対して機密費、接待費、交際費、旅費等の名義で支給したもののうち、その法人の業務のために使用したことが明らかでないもの
国税庁 法人税基本通達9-2-9 (9)
「業務のために使用したことが明らかでないもの」。逆に言えば、業務のために使ったと明らかにできるかどうかが、最初の分かれ目になります。
そしてもうひとつ、この通達には一人社長にとって重要な意味があります。私用が混ざったものは、業務に使った部分と私用の部分を分けて考えることになります。そして私用の部分を会社が負担していると、それは「経費にならない」のではなく、役員への給与(経済的な利益)として扱われることがあります。給与として扱われると、定期同額給与などの要件を満たさない限り会社では損金になりません。そのうえ受け取った側、つまり社長個人には所得税がかかります。会社と個人の両方で効いてくるということです。
混ざりやすい場所と、記録しておくこと
一人社長の経費で迷うものは、たいてい次の場所で発生します。どの制度の話になるのかが分かれば、調べ方も相談の仕方も変わります。
| 混ざる場所 | どの制度の話になるか | 記録しておくこと |
|---|---|---|
| 自宅兼事務所の家賃 | 役員社宅(賃貸料相当額) | 契約の名義、面積、仕事に使う割合 |
| パソコン・スマートフォン | 減価償却(少額資産の特例) | 取得日、金額、事業専用かどうか |
| 車 | 減価償却+私用混在の判定 | 走行の目的、使用状況 |
| 会食 | 交際費等・会議費 | 日付、相手、人数、金額、店名 |
| 健康診断・人間ドック | 給与課税されるかどうか(経済的な利益) | 社内規程、対象者の範囲 |
| 出張 | 旅費(旅費規程) | 規程、出張の記録 |
経費にできないものも、あらかじめ押さえておくと迷いが減ります。罰金や過料は損金になりません。まだ債務が確定していない支出も、その事業年度の経費にはなりません。家族との私的な旅行や生活費も同じです。
なお、法人になると、個人事業主のときにはなかった支出が出てきます。社長自身に払う役員報酬です。ただし損金にするには金額の決め方に独自の要件があるため、別の記事で扱っています。
分けられるものは分ける。分けられないものは、ルールにする
一人社長の経費で本当に効くのは、一覧を覚えることではなく、迷わずに済む形を先に作っておくことです。
ここから先は具体的な項目の話に入りますが、その前に編集部の方針を書いておきます。方針は2つだけです。
分けられるものは、按分せずに最初から分ける。分けられないものは、自分で線を引かずにルールにする。
プライベート利用のものは経費に入れない、と決めています。スマートフォンも、プライベート用と会社で使う用を別々に契約しています。パソコンも、事業用のものとプライベート利用のものを分けて使っています。
車も、自宅にプライベートで使っている車がありますが、それを仕事用に使うのは難しいので、会社の仕事に関連する移動に使う車両を別に購入しました。これは税理士に相談したうえで決めています。
合同会社スネッケ(ミニマル社長 編集部)
按分は正しい処理。ただし説明責任が毎年ついてくる
分けたほうが得になるから、という話ではありません。按分は制度として認められた正当な処理です。ただし按分を選ぶと、その割合が妥当である理由を毎年説明できる状態にしておく必要があります。一人社長にとって、この説明責任が毎年発生し続けることのほうが重い。削っているのは税額ではなく判断コストです。
分けられないものは、その場で迷わない形にしておく
とはいえ、分けられないものもあります。同じ食事が打ち合わせにも私的な食事にもなるし、自宅は1つしかない。その場合に編集部が取ったのは、自分で線を引かずにルールを作るという方法でした。
会食についてはルールが明確ではなかったので、税理士と相談したうえで、仕事の打ち合わせや取引先との交際接待といったところをルール化しました。
合同会社スネッケ(ミニマル社長 編集部)
念のために書いておくと、税理士に相談することは制度上の要件ではありません。相談しなければ経費にできない、ということではない。これは編集部が選んだやり方です。
出張が多い場合も同じ考え方が使えます。出張のたびに実費を集計する代わりに、旅費規程を作って日当の額をあらかじめ決めておく方法があります。これも「分けられないものをルールにする」型のひとつです。
自宅兼事務所は「按分」ではなく、契約の名義から決まる
個人事業主の家事按分と、法人の自宅兼事務所は別の制度です。会社が借りて社長に貸す形であれば役員社宅の話になり、家賃をいくら会社が負担できるかではなく、社長が会社にいくら払うかが問題になります。
ここは間違えやすいところです。個人事業主のときは、家賃のうち事業に使っている割合を必要経費にしていました。法人になると、会社と社長は別の人格です。会社が社長の住む家の家賃を負担すると、それは社長への給与と同じ効果を持ちます。
そこで登場するのが賃貸料相当額という考え方です。
役員に対して社宅を貸与する場合は、役員から1か月当たり一定額の家賃(以下「賃貸料相当額」といいます。)を受け取っていれば、給与として課税されません。
国税庁 No.2600 役員に社宅などを貸したとき(令和8年4月1日現在法令等)
会社が借りるのか、社長が借りているのか
社長個人が直接契約している家の家賃を会社が負担しても、社宅の貸与とは認められません。
同じページには、給与として課税される場合も書かれています。無償で貸した場合は賃貸料相当額が、賃貸料相当額より低い家賃しか受け取っていない場合はその差額が、それぞれ給与として課税されます。そして現金で支給される住宅手当や、入居者が直接契約している場合の家賃負担は、社宅の貸与と認められません。
つまり、契約の名義が誰なのかで結論が変わります。ここを確かめずに「家賃の何割かを経費に」と処理するのが、いちばん危ない進み方です。
賃貸料相当額の計算には固定資産税の課税標準額を使います。床面積が132平方メートル以下(法定耐用年数30年超の建物は99平方メートル以下)の小規模な住宅かどうかで算式が変わり、会社が他から借りて貸す場合は、会社が家主に支払う家賃の50パーセントとの比較も入ります。
自分で計算式を追うより、事実を揃えて相談したほうが早い領域です。編集部が実際に聞かれたのは、面積、使っている時間、仕事で使う割合でした。相談に行く前にこの3つを整理しておくと、判断の材料がそろいます。
住所そのものを分けるという選択肢もあります。
パソコンは40万円未満まで、買った年に落とせるようになった(2026年4月から)
2026年4月1日以後に取得した資産から、少額減価償却資産の特例の基準が30万円未満から40万円未満に引き上げられました。判定するのは取得した日です。
パソコンやカメラのように、それなりの金額になるものは、買った年に全額を経費にできるかどうかで手間が変わります。判断の分かれ目は3つあります。
10万円未満のものは、その年に全額を経費にできます。判定は通常1単位として取引される単位ごとに行うため、たとえば応接セットならテーブルと椅子で1組として見ます。20万円未満であれば、一括償却資産として3年で均等に償却する方法も選べます。
そして中小企業者等には、それより広い特例があります。
中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例について、令和8年4月1日以後に取得等(取得、製作又は建設をいいます。)をする減価償却資産の取得価額基準が30万円未満のものから40万円未満のものに引き上げられ、その適用期限が3年延長されました(措法67の5①、改正法附則65)。
国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」
青色申告をしている中小企業者等であれば、40万円未満の資産を取得した年に全額を経費にできます。合計額の上限は年300万円で、これは改正後も変わっていません。適用できるのは2029年3月31日までです。
3月に買うか、4月に買うかで変わる
判定の基準になるのは取得した日です。同じ35万円のパソコンでも、2026年3月に買ったものは改正前の30万円未満という基準で判定されるため、この特例は使えません。4月以降に買ったものなら、青色申告をしている中小企業者等などの要件を満たす場合に使えます。
買う時期を自分で決められるのは一人社長の強みです。年度をまたぐ時期に高めの機材を検討しているなら、ここは意識する価値があります。
なお、2026年9月時点では国税庁のタックスアンサーNo.5408は改正前の内容のままで、30万円未満と書かれています。検索して出てきたページの日付は確認したほうが安全です。
注意点がひとつ。この特例も、10万円未満の全額経費も、買った年に経費として処理することが条件です。いったん資産として計上してしまうと、あとの年度で全額を経費にすることはできません。
スマートフォンやパソコンは、私用と混ざりやすいものの代表でもあります。編集部が2台持ちにしているのはこのためで、事業用と割り切れば按分の話が最初から発生しません。
車は「買い方」より「私用で乗るか」で決まる
社用車で問題になりやすいのは価格や年式ではなく、私用で乗るかどうかです。私用が混ざると、その部分は役員への給与として扱われることがあります。
中古車の話から先に片づけます。中古資産を買った場合、法定耐用年数ではなく、使用可能期間として見積もった年数で償却できます。見積もりが難しい場合は簡便法が使えて、法定耐用年数をすべて経過している資産なら法定耐用年数の20パーセント、一部を経過している資産なら残存年数に経過年数の20パーセントを足した年数になります。1年未満は切り捨て、2年に満たない場合は2年です。4年落ちの車が2年で償却できると言われるのはこの計算によるものです(国税庁 No.5404)。
私用が混ざると、その部分は給与に近づく
ただし、この計算は事業に使うことが前提の話です。先ほどの通達には、役員等のために個人的費用を負担した場合もまた経済的な利益に含まれると書かれています。会社の車を私用でも使っているなら、その部分は会社の経費ではなく社長への給与に近づきます。
どこまでが私用でどこからが事業用かという割合の決め方は、通達には書かれていません。だからこそ、按分の割合を自分で決めるのは危うい進み方になります。
編集部の場合は、別の解き方をしました。
自宅にプライベートで使っている車がありましたが、それを仕事用に使うのも難しかったため、会社の仕事に関連する移動に使う車両を購入しました。都内に移動することが多いので、これを購入したことで取引先との連携がスムーズに取れるようになりました。
合同会社スネッケ(ミニマル社長 編集部)
私用の車を按分するのではなく、事業に使う車を別に持った。買う前の段階で「業務のために使っている」と言える状態を作っているわけです。
一人で食べた食事は、交際費では説明がつかない
交際費等は「事業に関係のある者など」に対する接待等のための支出をいいます。相手がいない食事は、この定義に当てはまりません。
会食は一人社長がいちばん迷うところです。まず定義を確認します。
交際費等とは、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者などに対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為(以下「接待等」といいます。)のために支出するものをいいます。
国税庁 No.5265 交際費等の範囲と損金不算入額の計算(令和7年4月1日現在法令等)
一人で食べた昼食は、誰かを接待したものではありません。交際費等としては説明がつかない、というのが定義から出てくる答えです。出張中の食事など別の整理になるものもありますが、少なくとも「一人で食べたから交際費」という説明は成り立ちません。
相手がいる会食は、記録が要る
相手がいる飲食であれば、1人あたり10,000円以下のものは交際費等から除かれます。令和6年3月31日以前に支出したものは5,000円以下が基準だったので、ここは改正後の金額です。ただし、この扱いを受けるには条件が2つあります。
ただし、この扱いを受けるには書類の保存が必要です。飲食のあった年月日、参加した相手の氏名や名称とその関係、参加した人数、金額と店の名称・所在地。これらを記録しておくことが条件になっています。領収書だけでは足りないということです。
もうひとつ、一人社長が引っかかりやすい除外規定があります。この10,000円の基準は、役員や従業員またはその親族だけに対する接待等のために支出したものには適用されません。社内の飲食は、この10,000円以下なら交際費等から除くという扱いの対象外だということです。
編集部が取ったのも、暗記ではなくルール化でした。仕事の打ち合わせなのか、取引先との交際接待なのかを先に決めておけば、その場で迷わずに済みます。
健康診断・人間ドックは、一人だからこそ引っかかる
健康診断の費用を会社が負担しても給与課税されないためには、役員や特定の地位にある人だけを対象にしないことに加えて、受けた人の全てを対象に会社が費用を負担していることが求められます。社長しかいない会社をどう見るかについて、国税庁の明示は見当たりません。
これは一人社長に特有の論点です。国税庁の質疑応答事例には、次のように書かれています。
役員や特定の地位にある人だけを対象としてその費用を負担するような場合には課税の問題が生じますが、役員又は使用人の健康管理の必要から、雇用主に対し、一般的に実施されている人間ドック程度の健康診断の実施が義務付けられていることなどから、一定年齢以上の希望者は全て検診を受けることができ、かつ、検診を受けた者の全てを対象としてその費用を負担する場合には、給与等として課税する必要はありません。
国税庁 質疑応答事例「人間ドックの費用負担」(令和7年8月1日現在の法令・通達等)
この回答が前提にしている会社は、同じページの照会要旨に書かれています。「社内規程を設け、役員及び使用人の健康管理の目的で、全員について春秋2回定期的に健康診断を実施しているほか、年齢35歳以上の希望者の全てについて2日間の人間ドックによる検診を実施しています」という会社です。
問題は、社長しかいない会社がこれに当てはまるのかどうかです。全員を対象にしているとも言えるし、役員だけを対象にしているとも読める。この点について国税庁が明示しているものは、調べた範囲では見当たりませんでした。
書けるのは、結論ではなく条件のほう
だからここでは「一人社長でも経費にできます」とは書きません。読み取れるのは条件のほうです。特定の地位の人だけを対象にしないこと、社内規程があること、受けた人の費用を会社が負担すること。同じ形を作るのであれば、まず社内規程を用意するという順番になります。
そのうえで、自分の会社の状況で成り立つかどうかは税理士に確認してください。判断がつかない論点を自分で決めてしまうのが、いちばん高くつきます。
よくある誤解を3つだけ解いておく
経費に「800万円まで」という全体の上限はありません。金額が小さいから経費にできない、という決まりもありません。
「法人の経費は800万円まで」ではない
よく出てくる800万円は、経費全体の上限ではなく交際費等の話です。資本金1億円以下などの法人は、交際費等のうち800万円(事業年度が12か月の場合)を超える部分が損金不算入になります。飲食費の50パーセントを超える部分を損金不算入とする計算との選択制です。
交際費等以外の経費に、この枠は関係ありません。
金額が小さいから経費にならない、ということはない
コーヒー1杯でも、打ち合わせのために出したものであれば会議に関連する飲食物として扱えます。逆に高額でも、業務のために使ったと説明できないものは経費になりません。判断しているのは金額の大小ではなく、最初に書いた「説明がつくか」です。
領収書がない=経費にできない、ではない
ここは2つの制度が混ざりやすいところです。法人税で経費(損金)になるかという話と、消費税で仕入税額控除ができるかという話は別の制度で、保存の要件は消費税のほうが厳しくなっています。
消費税の仕入税額控除では、帳簿に相手方の氏名または名称、年月日、内容、支払対価の額を記載したうえで、原則として請求書等の保存が必要です。ただし公共交通機関特例や自動販売機特例に該当するもの、一定規模以下の事業者が行う1万円未満の課税仕入れ(経過措置)については、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます(国税庁 No.6497)。
いずれにしても、最低限残しておきたいのは、相手、日付、内容、金額です。領収書が手元にない支出ほど、この4つを記録しておく意味があります。ただし先ほどの飲食費のように、制度ごとに追加で必要になる項目もあります。
記録そのものを軽くする話は、道具の選び方につながります。
まとめ:経費は、覚える仕事ではなく決める仕事
一人社長の経費で迷いが減るのは、一覧を覚えたときではありません。迷わずに済む形を先に作ったときです。
分けられるものは分ける。スマートフォンを2台持つ、パソコンを事業用と私用で分ける、事業に使う車を別に持つ。按分は正当な処理ですが、選んだ瞬間から毎年の説明責任が発生します。
分けられないものは、自分で線を引かずにルールにする。自宅兼事務所の割合、会食の扱い、出張の日当。そのルールを一度作ってしまえば、来月の月末に同じことで手が止まることはなくなります。
会社のお金と自分のお金を分けるという意味では、口座の持ち方も同じ話です。
写真:Photo by Mikhail Nilov on Pexels
この記事を書いた人
「経営を、もっとシンプルに。」を掲げるミニマル社長の編集部です。運営は合同会社スネッケ(2022年設立)。起業当初は代表がひとりで立ち上げ、いまはWebサイト制作を本業に、SEO・広告などのWebマーケティング全般、近年はAIの活用まで実務で扱っています。基本的な知識や情報を整理して伝えるだけでなく、自分たちが実際に使ってみて分かったこと、つまずいたこと、その上で何を選んだのかまで、できるだけそのまま書いていきます。

