これから一人で事業を始めようと考える際、「何から手をつけていいのかわからない」「設立費用がどれくらいかかるのか不安」と悩む方は多いのではないでしょうか。

会社設立の手続きは一見複雑に感じられますが、一つひとつの手順を紐解いていくと、一人でも十分に対応可能なステップの連続です。とくに近年は、ITツールの普及や行政のオンライン化が進み、時間と予算を抑えながら法人を立ち上げやすい環境が整っています。

この記事では、これから一人法人を設立しようと考えている方向けに、起業の全体的な流れや必要な準備、初期費用の目安についてわかりやすく整理します。小規模事業でも現実的な進め方のイメージをつかんでください。

※本記事は2026年4月時点の一般的情報です。制度・手数料・税額は改正や自治体の取扱いで変わり得ます。契約条件は各サービスの公式情報で、税務・労務・登記の最終判断は税理士・社労士・法務局等へご確認ください。

一人法人で起業するメリット

一人で法人を立ち上げる際には、個人事業主とは異なるメリットや責任が生じます。ここでは、会社設立の基本と、ご自身の事業に合った法人形態の選び方について解説します。

個人事業主と法人の違い

一人で事業を始める場合、まずは「個人事業主」としてスタートするか、「法人」を設立するかで迷う方も多いでしょう。

個人事業主と法人の違いの一例として、社会的信用の出し方と税制の仕組みが挙げられます。法人は法務局に登記されることで法人格が公示され、取引先から見た事業の実態が示しやすくなります。

BtoBでは「法人格を前提に契約する」運用も珍しくありません。また、融資や補助金の申請では、法人であることが条件や評価に影響しうる場面があります。

税金については、個人事業主は所得税の累進課税が基本です。法人側は、利益の規模や控除の有無などにより実効負担が変わります。一定の利益が見込める場合に法人化を検討する、という考え方はよく使われますが、必ず法人の方が有利とは限りません。

一方で、法人は会計処理や届出が増え、赤字であっても法人住民税の均等割などが発生しうる点には注意が必要です。売上見込みや事業計画を踏まえ、個別に判断しましょう。

「株式会社」と「合同会社」のどちらが良いか

法人を設立することに決めた場合、次に選ぶべきは法人形態です。日本の会社形態にはいくつか種類がありますが、一人社長の場合は実質的に「株式会社」と「合同会社」の二択になることが多いです。

株式会社は、社会的な認知度が高く、対外的な信用を重視する場面で選ばれやすい形態です。将来的に出資者を増やしたり、規模を広げたりする前提がある場合は検討しやすいでしょう。一方で、設立時の手続きやコストが合同会社に比べて重くなりがちで、決算公告などの義務もあります。

合同会社は、出資と経営が近い位置にある形態で、意思決定を比較的スピーディーに進めやすいのが特徴です。設立にかかる法定費用を抑えたい場合は、合同会社が現実的な選択肢になりやすいです。

「初期費用と手続きの軽さを優先するなら合同会社」「対外信用や将来の拡大方針を優先するなら株式会社」といった判断の軸で整理し、事業モデルに合わせて選ぶのがおすすめです。

一人法人の起業の手順と流れ(5つのステップ)

一人法人の起業は、手続きの全体像を把握しておくことで進めやすくなります。ここでは、会社設立に必要な5つのステップを順を追って説明します。

1. 会社の基本事項(定款の記載事項)の決定

まずは、会社の骨組みとなる基本事項を決定します。これらは後述する「定款(ていかん)」に記載する重要な項目となります。

  • 会社名(商号):会社の名前です。同一住所に同じ名前の会社は設立できないため、本店所在地を決める際に確認が必要です。
  • 事業目的:会社が何をして利益を得るのかを明記します。将来行う予定の事業も記載しておくと、後から定款を変更する手間が省けます。許認可が必要な業種の場合は、要件に沿った文言にする必要があります。
  • 本店所在地:会社の公式な住所です。
  • 資本金の額:法律上は1円からでも設立可能ですが、対外的な信用や当面の運転資金を考慮し、100万円〜300万円程度に設定するケースもよく見られます。
  • 発起人と役員構成:一人法人の場合は、ご自身が発起人(出資者)であり、かつ代表取締役(または代表社員)となります。

後からこれらの事項を変更するには時間も費用(登録免許税など)もかかるため、事業計画に基づいて慎重に決定しましょう。

2. 事業用住所(本店所在地)の準備

法人登記には、会社の本店所在地となる住所が必要です。

自宅の住所を登記することも可能ですが、賃貸住宅の契約では「居住専用」として事業利用や登記が禁止されていることがあります。加えて、登記された住所は公開情報になり得るため、プライバシーや防犯の観点で不安を感じる方もいらっしゃいます。

そのような場合の選択肢の一つがバーチャルオフィスです。物理的な常設オフィスなしに、事業用の住所や郵便物の受取・転送などを利用するサービス形態を指すことが多いです。契約内容・利用可否(登記できるか等)は事業者ごとに異なるため、必ず各公式サイトの条件を確認してください。考え方の整理はバーチャルオフィスとは?起業・法人化のメリットと無理のない始め方も参照ください。

3. 法人印の作成と資本金の払い込み

基本事項と住所が決まったら、実務的な準備を進めます。

法務局での設立登記申請には、「会社実印(代表者印)」の登録が原則必要です。印鑑はインターネット通販などを利用すれば、数千円から1万円程度で、実印・銀行印・角印のセットを作成できることが多いです(店舗・材質で変動します)。

印鑑が完成するまでの間に、発起人(ご自身)の個人銀行口座へ資本金を振り込みます。会社設立前は法人名義の口座がまだ作れないため、個人の口座を使用します。この際、通帳のコピー(表紙と振込履歴のページ)などが、法務局へ提出する「資本金の払込証明書」として必要になる手続きが一般的です。

4. 定款の作成と認証

定款とは、会社のルールブックにあたるものです。ステップ1で決めた基本事項などを文書にまとめます。

株式会社の場合、作成した定款を公証役場に持ち込み、公証人から「定款の認証」を受ける必要があります。この際、紙の定款では収入印紙が必要になる場合がありますが、PDF形式で作成し電子署名を行った「電子定款」を利用すれば、印紙代を抑えられるケースがあります(手続詳細は公証人・法務局の案内を確認してください)。

合同会社の場合は定款の作成自体は必要ですが、公証役場での認証手続きは不要です。そのため、手続きにかかる時間と費用を抑えやすい形態です。

5. 法務局への登記申請

最後に、管轄の法務局へ設立登記の申請を行います。

定款、資本金の払込証明書、登記申請書などの必要書類をまとめ、登録免許税を納付して申請します。会社が成立するのは、設立登記が完了した時点です。申請した日がそのまま成立日になるとは限らず、審査に数日かかることもあります。書類に不備がなければ、一定期間で審査が進み、登記簿謄本(履歴事項全部証明書)や印鑑証明の取得に進めます。

オンライン申請で手間を減らす(法務省の案内)

時間と手間を抑えたい一人社長にとって、役所への移動や書類の往復は負担になりやすいものです。法務省は、一人会社の設立登記について、オンライン申請の利用を案内しています(詳細は参考資料の法務省ページを参照)。

費用と手間を抑えるオンライン申請のポイント

登記申請は、法務局の窓口へ出向かなくても、自宅やオフィスからオンラインで手続きできる場合があります。

法務省の案内によれば、ご自身の「マイナンバーカード(署名用電子証明書付き)」と、それを読み取る「ICカードリーダー(または対応するスマートフォン)」があれば、申請書や添付書類に電子署名を付与できる旨が示されています。手元環境や提出方法の条件は更新されることがあるため、申請前に同ページで最新情報を確認してください。

株式会社の設立に必要な電子定款の作成については、日本公証人連合会が発起人1名向けの「定款作成支援ツール」を公開しており、シンプルな会社であれば認証手続きを進めやすい場合があります。

また、法人設立ワンストップサービス(マイナポータル経由の電子申請)を利用すると、登記に加え、年金・税務など設立後の届出をオンラインでまとめて進められる場合があります。利用できる手続きの範囲は制度改定で変わり得るため、公式の案内で都度確認するのが安全です。

会社設立にかかる初期費用とランニングコスト

会社を設立するにあたって、最も気になるのが費用の問題です。ここでは、起業時に必要な実費の目安と、設立後に発生しうるコストについて整理します。

設立手続きにかかる費用の目安

法人設立には、登録免許税や公証人手数料など、手続きに伴う費用が発生します。金額は法令・申請内容により変わるため、確定額は申請時点の管轄法務局・公証役場の案内で確認してください。

株式会社の場合(目安)

  • 定款の認証手数料:公証人の定款認証に係る手数料(会社の定めにより異なります)
  • 登録免許税:資本金額と法令に基づく計算の結果として決まります(一般的な説明として「資本金1,000万円未満の株式会社」では15万円に相当する水準がよく引用されますが、資本金額によっては0.7%計算が優先される場合があります)
  • 紙の定款を用いる場合:収入印紙が必要になる場合があります(電子定款の場合は不要なケースがあります)

合同会社の場合(目安)

  • 定款の認証手数料:不要(公証役場での定款認証は要しません)
  • 登録免許税:資本金等に応じた計算(一般的な説明として6万円に相当する水準がよく引用されますが、資本金額によっては0.7%計算が優先される場合があります)

その他手続きにかかる費用

上記のほか、法人印の作成費用や、バーチャルオフィスを契約する場合の月額・初期費用などが加わります。

予算を抑えたい場合は、「合同会社+電子定款+オンライン申請」という組み合わせを、費用と手間の両面から検討する価値があります。

設立後の税金や社会保険について

会社は作って終わりではなく、維持するためにもコストがかかります。

法人を設立すると、たとえ社長一人だけの会社であっても、健康保険や厚生年金などの社会保険への加入が原則として検討対象になります。国民健康保険からの切替え、役員報酬の決め方と保険料の関係などは、社労士・年金事務所の説明で確認するのが確実です。

法人住民税には「均等割」があり、利益がなくても課税される場合があります。金額は市区町村によって異なります。管轄自治体の条例・通知や税務署・市町村の窓口で確認してください。

法人税の申告は、個人の確定申告に比べて項目が多くなりがちです。会計ソフトの利用に加え、税理士への相談を早めに検討するのが無難です。税率・控除の適用は個別事情に依存するため、国税庁の公表資料と専門家の助言をあわせて確認してください。

一人法人の起業では、初期費用だけでなくランニングコストも見据えた資金計画が重要です。

まとめ:一人法人の起業は事前準備で進めやすく

一人で法人を立ち上げる流れや手続きについて整理しました。限られた予算と時間のなかで進めるには、事前の情報収集と優先順位づけが役立ちます。

手続きは一見複雑に感じますが、次のポイントを押さえると進めやすくなります。

  1. 対外信用や将来の拡大方針を重視するなら「株式会社」、初期費用と手続きの軽さを重視するなら「合同会社」を検討する。
  2. 自宅住所の公開や賃貸契約の制限に不安がある場合は、バーチャルオフィス等の契約条件を公式で確認したうえで選択肢を比較する。
  3. 印紙代や移動の手間を抑えるために、電子定款やオンライン申請、ワンストップサービスなど公式案内に沿って活用できるかを確認する。

まずは、会社名や事業目的など「会社の基本事項」を紙に書き出すことから始めてみましょう。関連する論点はひとり社長とは?起業のリアルと無理のない始め方バーチャルオフィスとは?起業・法人化のメリットと無理のない始め方からも辿れます。