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「開業届に自宅の住所を書きたくない」「ネットショップの特商法表記に自宅を載せるのが不安」——個人事業主として動き始めると、事業用の住所をどこにするかで手が止まります。
バーチャルオフィスは個人事業主でも契約できます。ただし開業届・納税地・特定商取引法の表記では、それぞれ扱いが違います。この記事では、国税庁と消費者庁の一次情報をもとに、どこまで使え、何には使えないのかを整理します。
※この記事は一般情報の整理です(2026年8月時点)。個別の判断は所轄の税務署や税理士・専門家へご確認ください。
開業届にバーチャルオフィスの住所を書けるか
開業届には住所を書く欄が2つあり、納税地は「住所地」を選べます。バーチャルオフィスを契約しても、納税地は自宅のままにできます。
個人事業の開業・廃業等届出書には、住所を記載する欄が2か所あります。
- 納税地:区分の欄で「5. 住所地」「6. 居所地」「7. 事業所等」のいずれかの番号を記載し、その住所を書く
- 上記以外の住所地・事業所等:納税地以外に住所地・事業所等がある場合に、その所在地を書く
様式にはこう書かれています。
区分 ← 納税地について以下の該当する番号を記載してください
国税庁「個人事業の開業・廃業等届出書」
5. 住所地 6. 居所地 7. 事業所等
国内に住所がある人は「5. 住所地」を選べます。バーチャルオフィスを契約したからといって、納税地をそちらにしなければならないわけではありません。
一方、バーチャルオフィスの住所を「事業所等」として書けるかどうかは、次章で扱う「事業場等に当たるか」という論点と同じ問題になります。この点は所轄の税務署へ確認してください。
屋号を記載する欄もあるので、屋号を決めているなら合わせて書きます。
住民票の住所には使えない
開業届に書けるからといって、住民票の住所をバーチャルオフィスに移せるわけではありません。住所の意味は民法で定められています。
各人の生活の本拠をその者の住所とする。
民法 第22条
その「住所」を持つ人が、その市町村の住民になります。
市町村の区域内に住所を有する者は、当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民とする。
地方自治法 第10条第1項
そして住民基本台帳法は、住民の住所をこれと別の意味に解釈することを禁じています。
住民の住所に関する法令の規定は、地方自治法(略)第十条第一項に規定する住民の住所と異なる意義の住所を定めるものと解釈してはならない。
住民基本台帳法 第4条
3つの条文はつながっていて、住民票に登録する住所は、民法にいう「生活の本拠」から切り離せません。バーチャルオフィスで置き換えられるのは事業用の住所であって、生活の拠点そのものではない、と整理しておくと迷いません。
なお、そもそも開業届を出す対象になるのかどうかで迷っている場合は、対象になる所得の種類と提出期限を別の記事で整理しています。
納税地はどこになるか
所得税の納税地は住所地が原則です。事業場等の所在地を選ぶこともできますが、義務ではありません。
「バーチャルオフィスを契約したら、納税地もそこにしなければいけないのか」という疑問がありますが、そうではありません。所得税法は納税地をこう定めています。
所得税の納税地は、納税義務者が次の各号に掲げる場合のいずれに該当するかに応じ当該各号に定める場所とする。
所得税法 第15条
一 国内に住所を有する場合 その住所地
そのうえで、特例が置かれています。
国内に住所又は居所を有し、かつ、その住所地又は居所地以外の場所にその営む事業に係る事業場その他これに準ずるもの(以下この項において「事業場等」という。)を有する納税義務者は、(略)その住所地又は居所地に代え、その事業場等の所在地(その事業場等が二以上ある場合には、これらのうち主たる事業場等の所在地)を納税地とすることができる。
所得税法 第16条第2項
条文は「することができる」としています。事業場等を持つ人は、その所在地を納税地として選べますが、変更は義務ではありません。
バーチャルオフィスの住所を納税地にできるかは、別の話
第16条第2項が指しているのは「その営む事業に係る事業場その他これに準ずるもの」です。この条文だけでは、実際の作業スペースを持たない住所貸しが「事業場等」に当たるかどうかは判断できません。
納税地をバーチャルオフィスの住所にしたい場合は、契約前に所轄の税務署へ確認してください。自宅を納税地にしたまま使うぶんには、この論点は起きません。
納税地を変えるときの手続き
国税庁は、変更の手続きをこう案内しています。
納税地の特例により納税地の変更を行う場合は、変更後の納税地を記載した所得税または消費税の申告書を提出することにより変更することができます
国税庁 No.2029 確定申告書の提出先(納税地)
納税地の特例による変更は、変更後の納税地を書いた申告書を出せば足り、別途の届出書は要りません。年の途中で書類の送付先も変えたい場合は「所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する申出書」を提出できます。
特定商取引法の表記に使えるか
消費者庁は、一定の措置がとられていればバーチャルオフィスの住所でも要請を満たすと考えられる、としています。事業者との合意が要ります。
ネットショップなど通信販売をするなら、特定商取引法に基づく表記が必要です。ここに自宅住所を載せたくない、というのがバーチャルオフィスを検討する一番よくある理由です。消費者庁のQ&Aに、まさにこの質問があります。
Q18 私は個人事業者ですが、バーチャルオフィス等の住所及び電話番号を表示することは可能でしょうか。
A18 (略)「住所」については現に活動している住所、「電話番号」については確実に連絡が取れる番号を表示する必要がありますが、以下のような措置が講じられ、住所及び電話番号について上記の要件が満たされる場合においては、(略)バーチャルオフィスの住所及び電話番号を表示することによっても、特定商取引法の要請を満たすものと考えられます。
消費者庁「通信販売広告Q&A」A18
バーチャルオフィスを使う場合に関わるのは、次の2つです(残る1つはプラットフォーム事業者の住所を表示する場合の条件です)。
- 表示する住所と電話番号が連絡先として機能することについて、あなたとバーチャルオフィス運営事業者との間で合意がなされていること
- バーチャルオフィス運営事業者が、あなたの現住所と本人名義の電話番号を把握していて、確実に連絡が取れる状態になっていること
そして、次の但し書きが付いています。
ただし、個人事業者、プラットフォーム事業者又はバーチャルオフィス運営事業者のいずれかが不誠実であり、消費者から連絡が取れないなどの事態が発生する場合には、特定商取引法上の表示義務を果たしたことにはなりません。
消費者庁「通信販売広告Q&A」A18
契約すれば自動的に条件を満たす、というものではありません。契約先のバーチャルオフィス運営事業者が、住所・電話番号の特商法表記への利用を認めているか、申し込む前に確認してください。
屋号やサイト名だけでは足りない
住所を借りても、名前の表示は別に考える必要があります。
Q16 事業者の名称は屋号の表示で足りるでしょうか。
A16 販売業者又は役務提供事業者の「氏名又は名称」については、個人事業者の場合は戸籍上の氏名又は商業登記簿に記載された商号を、法人にあっては登記簿上の名称を記載することを要し、通称や屋号、サイト名のみを表示することは認められません。
消費者庁「通信販売広告Q&A」A16
個人事業主が通信販売をする場合、特商法の表記に書けるのは戸籍上の氏名か、商業登記簿に記載された商号です。屋号やサイト名をそのまま書くだけでは足りません。
商号を登記すれば、氏名の代わりに使える
見落とされやすいのですが、商号の登記は法人だけのものではありません。
商人(会社及び外国会社を除く。以下この編において同じ。)は、その氏、氏名その他の名称をもってその商号とすることができる。
商法 第11条
2 商人は、その商号の登記をすることができる。
個人で事業を営む人も商号を登記でき、氏名以外の名称を商号にすることもできます。登記していない屋号は認められませんが、登記した商号なら特商法の表記に使えます。
つまり「自宅住所を出したくない」と「本名を出したくない」は、対処が別です。住所はバーチャルオフィスで置き換えられますが、名前のほうは商号の登記という別の手続きになります。手続きの要否や費用は法務局へ確認してください。
住所の表示そのものを省略する方法もある
消費者庁のQ&Aでは、住所と電話番号の表示を省略できる場合も示されています。
消費者からの請求によって、広告表示事項を記載した書面又は電子メール等を「遅滞なく」提供することを広告に表示し、かつ、実際に請求があった場合に「遅滞なく」提供できるような措置を講じている場合には、事業者の住所及び電話番号の表示を省略することも可能です。
消費者庁「通信販売広告Q&A」A17
ただし、この方法をとる場合の実務は次のようになります。
- 「請求があれば遅滞なく提供します」と広告に表示する
- 請求が来たら、実際に遅滞なく提供できる体制を用意しておく
- ここでいう「遅滞なく」とは、申込みの意思決定に先立って十分な時間的余裕をもって提供されること
つまり、請求してきた消費者には結局、特商法上必要な住所と電話番号を伝えることになります。しかも購入を検討している段階の相手に、その都度対応する必要があります。不特定多数には見せない代わりに、問い合わせてきた個人には出す、という形です。住所を見せる相手が減るだけで、見せずに済むわけではありません。
会社の場合、私書箱では代わりにならない
特定商取引法での「住所」とは、会社の場合には本店の所在地等、営業上の活動の拠点となる場所を指すものです。私書箱を表示しても、このような場所を表示したことにはならないので、「住所」の表示をしたことにはなりません。
消費者庁「通信販売広告Q&A」A19
会社の場合、郵便を受け取れるだけの私書箱を表示しても、特商法上の「住所」を表示したことにはなりません。法人化を考えているなら、この点も踏まえて住所を選ぶことになります。
個人事業主が選ぶときの条件
「どこに住所を載せるか」で必要なプランが決まります。安さだけで選ぶと、載せたい場所に載せられないことがあります。
自分の用途を先に決めると、選ぶプランが絞れます。
| 住所を載せたい場所 | 必要になるもの |
|---|---|
| 特商法の表記だけ | 用途が限定された低価格プランでも足りることがある |
| 名刺・ホームページにも載せる | 用途に制限のないプラン |
| 将来、法人化して登記する | 登記に対応したプラン |
用途が決まったら、月額のほかに次の3つを確認します。
- 初期費用の総額:入会金・保証金・デポジットを合わせた額
- 最低契約期間と支払い方法:毎月払いができるか、年払いのみか
- 郵便物の転送頻度:週1回・月1回など。急ぎの書類が届く事業かどうかで選ぶ
月額が安くても、年払いしか選べなければ最初にまとまった金額が出ていきます。
名刺やホームページに載せられるかは、プランで決まる
名刺やホームページへの住所掲載は、ここまで見た特商法上の表示義務とは別に、バーチャルオフィス側の契約条件を確認する必要があります。
「住所を貸す」といっても、どこまで載せてよいかは契約するプランごとに違います。申し込む前に、自分が載せたい場所が対象に含まれているかを確認してください。
バーチャルオフィスそのものの仕組みや、料金相場・選び方はこちらにまとめています。
プラン例|GMOオフィスサポート 最安プランは用途が限られていることがある
たとえばGMOオフィスサポートのミニマムプラン(月660円)は、法人登記ができず、ホームページや名刺への住所掲載も対象外です。使えるのは特商法表記と送り状への住所掲載、返品・返送品と個人事業主の税金関連書類の受取に限られます(2026年7月時点の同社の公開情報)。
月額だけを見て契約すると、名刺を作る段になって使えないと分かる、ということが起こります。
プラン例|レゾナンス
レゾナンスは、個人事業主の利用について公式サイトでこう案内しています。
法人登記はもちろん、個人事業主の方もご利用いただけます。(ホームページや名刺への記載もOK)副業、通販サイト開設など自宅住所を公開したくない方、特商法表記の情報としてもご利用可能でございます。個人事業主の方は郵便物のお受取に屋号を追加できます。
2026年8月時点の公式サイトの記載
特商法の表記で使う場合、先に触れたとおり「事業者との合意」が条件になります。用途として公式に明示されているかどうかは、確認するときの手がかりになります。
- 同社で法人登記に対応する最安プランは月額990円(月1回転送・1年払い11,880円の一括)
- ホームページ・名刺への記載に対応
- 特商法表記での利用に対応
- 個人事業主宛ての郵便物は、受取名義に屋号を追加できる
- 東京・横浜・大阪梅田の13店舗(うち都内11店舗)
個人事業主が実際に使ううえでは、郵便物のさばき方も効いてきます。
- 届いた郵便物は会員サイトで写真を確認できる(無料)。不要なダイレクトメールは破棄を依頼できる
- 急ぎの郵便物はスポット転送で即日発送(1回500円+送料実費)
- 郵便物の来店受取は全店舗に対応(月1回転送のプランを除く)
- 全店舗に貸し会議室、渋谷駅前店にコワーキングスペース(17席)
自宅で仕事をしていると、打ち合わせの場所と郵便物の受け取りで詰まります。住所と一緒にその2つを用意できるかどうかは、契約したあとで効いてくる部分です。
契約前に押さえておきたい条件もあります。
- 990円プランは1年払いのみ。毎月払いの選択肢はない
- 入会金5,500円が別途かかる(入会金0円のキャンペーンは週1回転送プランの1年払いが対象で、990円プランは対象外)
- デポジット1,000円〜(郵便転送料などに充当され、解約時に残高が返金される)
- 月1回転送のプランは来店での受け取り不可
初年度に必要な金額は、990円プランの場合、11,880円+入会金5,500円+デポジット1,000円=18,380円からという計算になります。月額の数字だけで比べると実際の負担を見誤ります。
しかし、法人化まで視野に入れているなら、契約後に使える窓口も見ておく価値があります。法人口座の開設ではみずほ銀行・GMOあおぞらネット銀行・住信SBIネット銀行・PayPay銀行の4行を紹介してもらえます(審査は各行が行います)。会社設立の書類作成サービスもあり、電子定款に対応しているため収入印紙代の4万円がかかりません。住所を借りるところから設立まで、同じ窓口で進められます。
もうオフィスはいらない!都内一等地のバーチャルオフィス【レゾナンス】7社の料金・法人登記・郵便物の転送・拠点を横に並べた比較はこちらです。
法人化したときに住所はどうなるか
住所を変えると、作り直すものが多くなります。法人化を考えているなら、登記できる住所を先に選んでおくと変えずに済みます。
個人事業主として使っていた住所を法人でもそのまま使えるなら、対外的な住所表記は変えずに済みます。使えない場合は、住所を書いた場所をすべて洗い出して直すことになります。
住所を変えると、やり直す範囲が広い
- 名刺の作り直し(刷った分は使えなくなる)
- ホームページ、SNSのプロフィール、パンフレットの表記
- 特定商取引法に基づく表記
- 取引先への連絡(請求書などに記載する自社住所が変わり、先方でも登録情報の更新が必要になる)
- 銀行や各種サービスに登録した住所
とくに通信販売をしている場合、特商法の表記は販売を続けながら直すことになります。表記が実態と合わない期間をつくらないよう、切り替えの段取りが要ります。
住所は一度決めると、名刺・Web・契約書・取引先の台帳に少しずつ広がっていきます。あとから変えるコストは、契約するときに想像するより大きくなりがちです。
登記できる住所を選んでおけば、変えずに済む
法人化して登記をするなら、登記に対応した住所が必要です。登記できないプランのままでは、その住所を法人登記に使えません。同じ住所のまま登記対応プランへ変更できない場合は、法人化のタイミングで住所を変えることになります。
その法人化のタイミング自体をどう決めるかは、法人化のタイミングは何で決める?売上の伸び方で判断した編集部の話で整理しています。
一方、最初から登記に対応した住所を選び、法人化後も同じ住所を継続して使えるなら、住所部分の書き換えは不要です。ただし名刺・Web・特商法の表記にある事業者名は、法人化にともなって登記簿上の名称へ更新する必要があります。住所と名称は別々に考えてください。
法人化して登記する段になると、住所の論点は少し変わります。会社の住所とは別に、代表者個人の住所も登記されるためです。その扱いはバーチャルオフィスで法人登記をするときの論点で扱っています。
いま法人化の予定がなくても、数年以内に考える可能性があるなら、登記できるプランを選んでおくほうが後の手間は少なくなります。月額の差は事業者やプランによって異なりますが、変更にかかる手間は住所を使った範囲の広さで決まります。
法人を設立したあとにやることは、期限のあるものから順にこちらで整理しています。
まとめ
バーチャルオフィスは個人事業主でも契約できますが、住所を「どこに載せるか」で必要なプランが変わります。
- 開業届:納税地は「住所地」を選べるので自宅のままにできる。バーチャルオフィスの住所を別欄に書けるかは所轄の税務署へ確認する
- 納税地:住所地が原則。事業場等に変えるのは任意で、バーチャルオフィスが該当するかは税務署に確認する
- 住民票:生活の本拠を登録するものなので、事業用に借りた住所は使えない
- 特商法:所定の措置がとられ、運営事業者との合意があれば使える。表示名は戸籍上の氏名か登記した商号で、屋号やサイト名だけでは足りない
- 名刺・ホームページ:プランによって対象外のことがある
- 法人化:登記に対応し、法人化後も継続して使える住所を選んでおくと、住所変更を避けられる
この記事を書いた人
「経営を、もっとシンプルに。」を掲げるミニマル社長の編集部です。運営は合同会社スネッケ(2022年設立)。起業当初は代表がひとりで立ち上げ、いまはWebサイト制作を本業に、SEO・広告などのWebマーケティング全般、近年はAIの活用まで実務で扱っています。基本的な知識や情報を整理して伝えるだけでなく、自分たちが実際に使ってみて分かったこと、つまずいたこと、その上で何を選んだのかまで、できるだけそのまま書いていきます。

