会社をつくる準備を進めると、「自宅の住所を公開したくないので、バーチャルオフィスで登記したい」と考える人は少なくありません。実際、バーチャルオフィスの住所で法人登記をすることはできます。
この記事では、登記簿にはどの住所が載るのか、自宅の住所をどこまで見せずに済むのかを、会社法と法務省の一次情報をもとに整理します。
ただし、先に一つ押さえておきたいことがあります。登記簿に載る住所は、会社の住所だけではありません。
※この記事は一般情報の整理です(2026年8月時点)。個別の判断は司法書士などの専門家や法務局へご確認ください。
バーチャルオフィスの住所で法人登記はできます
会社法に、本店の所在場所を実際の作業場所とする定めはありません。まず確認したいのは、契約するプランが登記に対応しているかどうかです。
会社法は、会社の設立登記で「本店及び支店の所在場所」を登記すると定めています(株式会社は会社法911条3項3号、合同会社は914条3号)。ここで求められているのは所在場所を登記することであって、そこが実際の作業場所であることまでは条文に書かれていません。
だから、契約上の利用条件と業種ごとの要件を満たしていれば、バーチャルオフィスの住所を本店として登記できます。自宅やレンタルオフィスの住所を本店にできるのも同じ理由です。自分の所有でない場所を使う場合は、貸主や運営会社がその使い方を認めているかどうかも確認が要ります。
まず確認したいのは「登記に対応したプランか」
法律ではなく契約の話として、確認すべき点が3つあります。
- 登記に使えるプランかどうか
住所の利用だけを認めるプランでは、登記に使えない場合があります。 - 登記が別料金かどうか
基本料金とは別に、登記オプションの費用がかかるサービスがあります。 - 住所使用の承諾書を発行してもらえるか
住所の使用を認める書面を発行する事業者があります。
申し込む前に、この3点をプランの説明で確認してください。なお、登記できるかどうかは住所だけで決まりません。同じ住所に同じ商号の会社があると登記できませんし、業種によっては事務所の実態が問われます(どちらも後述します)。契約から登記完了までの流れは、別の記事で手順としてまとめています。
登記簿に載る住所は2つある
一人で会社をつくるとき、登記簿に載る住所は「会社の住所」と「代表者個人の住所」の2つです。バーチャルオフィスの住所を使えるのは、前者だけです。
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。会社法が定める登記事項には、性質の違う住所が2種類あります。
支店を置けば支店の所在場所も登記されますし、合同会社の代表社員が法人であれば、その職務を行う人の住所も登記されます(会社法914条8号)。ここでは、一人で会社をつくるときに関わる2つを扱います。
| 登記される住所 | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 会社の住所(本店の所在場所) | 911条3項3号 | 914条3号 |
| 代表者個人の住所 | 911条3項14号(代表取締役) | 914条7号(代表社員) |
条文はこう書かれています。
十四 代表取締役の氏名及び住所(第二十三号に規定する場合を除く。)
会社法 第911条第3項第14号
七 合同会社を代表する社員の氏名又は名称及び住所
会社法 第914条第7号
会社の住所には、契約したバーチャルオフィスの住所を使えます。一方で代表者個人の住所の欄には、自分が住んでいる住所を登記します。バーチャルオフィスの住所を代表者の住所として使うことはできません。
登記事項証明書は、誰でも取得できる
登記された内容を証明する書面は、取引先や金融機関だけが取れるものではありません。
何人も、手数料を納付して、登記簿に記録されている事項を証明した書面(以下「登記事項証明書」という。)の交付を請求することができる。
商業登記法 第10条第1項
「何人も」とあるとおり、会社と関係のない人でも取得できます。住所を公開したくないという動機で会社の住所だけを借りても、代表者個人の住所は同じ登記簿に登記されます。
この点を知らないまま設立すると、「バーチャルオフィスにしたのに自宅の住所が知られた」という事態が起こります。ただし株式会社には、証明書に出る範囲を狭める制度があります。次の章から、その扱いが会社の種類でどう変わるかを見ていきます。
株式会社と合同会社で、代表者の住所の扱いが違う
合同会社で住所まで登記されるのは、代表社員です。自分ひとりだけが社員になるなら、その自分が代表社員になります。
合同会社の登記事項を定めた会社法914条は、社員の扱いを号で分けています。
- 6号
合同会社の業務を執行する社員の氏名又は名称 - 7号
合同会社を代表する社員の氏名又は名称及び住所
6号には住所がありません。代表権を持たない業務執行社員は、氏名または名称までしか登記されないということです。住所まで登記されるのは、7号の代表社員だけです。
一人で設立するなら、この違いは出ない
自分ひとりだけが合同会社の社員になるなら、自分が代表社員になります。複数人でつくり、自分は代表にならないのであれば住所は登記されませんが、ひとりではその選択肢がありません。
株式会社も同じで、会社を代表する人の住所が登記されます(会社法911条3項14号)。取締役のうち代表権を持たない人は氏名だけです。そして会社法349条1項は「取締役は、株式会社を代表する」と定めているので、自分ひとりだけが取締役なら、自分が会社を代表することになります。
つまり自分ひとりだけが取締役、または合同会社の社員になる形でつくる限り、会社形態を変えても、自分の住所が代表者の住所として登記されます。違いが出るのは、次の章で扱う制度が使えるかどうかです。
株式会社なら、証明書に出る代表者の住所を市区町村までに留められる
2024年10月から、株式会社は登記事項証明書などに出る代表者の住所を最小行政区画までに留める措置を申し出られます。住所そのものは登記されます。合同会社は対象外です。
法務省が「代表取締役等住所非表示措置」という制度を設けています(商業登記規則等の一部を改正する省令・令和6年法務省令第28号、2024年10月1日施行)。
名前は「非表示」ですが、住所を登記しないでよくなる制度ではありません。法務省はこう説明しています。
一定の要件の下、株式会社の代表取締役、代表執行役又は代表清算人(中略)の住所の一部を登記事項証明書や登記事項要約書、登記情報提供サービス(中略)に表示しないこととする措置です。
法務省「代表取締役等住所非表示措置について」
住所は登記されます。狭まるのは、証明書に表示される範囲です。登記の申請書にも住所を書きますし、引っ越したときに住所変更の登記をする義務もなくなりません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 株式会社の代表取締役、代表執行役、代表清算人 |
| 対象外 | 合同会社をはじめとする持分会社 |
| 申し出るタイミング | 代表者の住所が登記事項になる申請と同時(設立・就任・住所移転のほか、重任や管轄外への本店移転でも可) |
| 登記事項証明書等に表示される範囲 | 最小行政区画まで(市区町村、東京都は特別区、指定都市は区) |
住所が消えるわけではない
この措置を使っても、登記事項証明書から住所の記載がなくなるわけではありません。市区町村までは表示されます。表示されなくなるのは、町名、丁目、番地、建物名、部屋番号など、最小行政区画より後ろの部分です。さらに法務省は、官公署等から請求があった場合は住所の情報を提供すること、利害関係人は住所の記載された書面を閲覧できることも明記しています。誰の目にも触れなくなる制度ではありません。
思い立ったときに単独で申し出ることはできない
法務省はタイミングをこう定めています。
代表取締役等の住所が登記されることとなる登記の申請と同時にする場合に限りすることができます。
法務省「代表取締役等住所非表示措置について」
設立の登記、代表者の就任の登記、住所変更の登記といった「住所が登記される場面」と同時でなければ申し出られません。登記の予定がない状態で、この措置だけを単独で申し出ることはできないということです。設立のときだけの制度ではなく、代表者の重任や管轄外への本店移転にあわせて申し出ることもできますが、いずれにせよ登記の機会が要ります。会社をつくる段階は、その最初の機会にあたります。
なお、上場会社以外の株式会社が申し出る場合、添付書面は次の3区分です。すでにこの措置が講じられている場合は2つ目だけで足りるなど、省略できることもあります。
- 本店の実在性を証する書面
会社宛ての配達証明郵便に関する書面のほか、登記を受任した資格者代理人が本店の実在性を確認した書面でも構いません。 - 代表者の氏名と住所が記載された市町村長等による証明書
住民票、戸籍の附票、印鑑証明書など。 - 実質的支配者の本人特定事項を証する書面
司法書士による確認記録の写しなど。
登記した住所で郵便を受け取れるかは、あとから効いてくる
1つ目の書面には、会社宛ての配達証明郵便に関する書面という選択肢があります。ただし資格者代理人が確認した書面でも足りるので、郵便の受け取りが申出の必須条件というわけではありません。
効いてくるのは、措置が始まったあとです。法務省は、措置が終了する場合についてこう書いています。
代表取締役等住所非表示措置が講じられた株式会社について、その本店が登記上の所在場所に実在しない蓋然性が高いと考えられる場合、登記官が別添の通知を株式会社の本店に宛てて送付し、一定の期間内に返送等がない場合は代表取締役等住所非表示措置を終了させます。
法務省「代表取締役等住所非表示措置について」
登記所からの通知が本店に届き、返送できる状態になっている必要があるということです。措置そのものに期限はありませんが、終了する事由に当たれば打ち切られます。
法務省のページに「バーチャルオフィスは実在性が認められない」という記載はありません。ここで断定はできません。ただ、郵便物の受け取りと転送をどう設定するかは、利便性だけの問題ではないということです。気になる場合は、申出の前に法務局へ確認してください。
住所が変わる登記のときは、申し出直さないと表示が戻る
住所が変わらない登記であれば、申出をやり直す必要はありません。法務省は、住所に変更がない重任や再任の登記、管轄外へ本店を移したときの新本店所在地における登記を例に挙げ、改めて申し出ることなく措置が引き継がれると説明しています。
問題になるのは、代表者が引っ越したときです。
代表取締役等住所非表示措置の申出がされずに住所に変更がある登記が申請された場合、新しく登記される住所については代表取締役等住所非表示措置が講じられませんので、御注意ください。
法務省「代表取締役等住所非表示措置について」
住所変更の登記は、代表者が引っ越せば必要になります。そのときに申し出直さなければ、新しい住所は最初から表示されます。
ちなみに、やめるときの申出は登記と同時である必要がなく、単独で行えます。始めるときだけ登記の機会が要る、という非対称な作りになっています。
法務省自身が、代償を明記している
この措置には副作用があります。法務省のページには、こう書かれています。
金融機関から融資を受けるに当たって不都合が生じたり、不動産取引等に当たって必要な書類(会社の印鑑証明書等)が増えたりするなど、一定の影響が生じることが想定されます。
法務省「代表取締役等住所非表示措置について」
理由は単純で、登記事項証明書によって代表者の住所を証明できなくなるからです。融資や不動産取引の場面では、相手から代表者の住所確認を求められることがあります。そのとき別の書類が必要になります。
プライバシーを優先すると、資金調達のときに手間が増えることがあります。どちらを取るかは事業の進め方によって変わるので、設立時に一度考えておく価値があります。
バーチャルオフィスで登記するときに詰まる4つのこと
住所そのものより、契約の条件や各種の審査でつまずくことが多くあります。
1. 同じ住所に同じ商号があると登記できない
商号の登記は、その商号が他人の既に登記した商号と同一であり、かつ、その営業所(会社にあつては、本店。以下この条において同じ。)の所在場所が当該他人の商号の登記に係る営業所の所在場所と同一であるときは、することができない。
商業登記法 第27条
この条文が禁止しているのは「同一の所在場所」と「同一の商号」がそろった場合です。本店の所在場所が違えば、同じ商号の会社が全国にあっても、この禁止には当たりません。ただし別に会社法8条があり、不正の目的で他の会社と誤認されるおそれのある商号を使うことは禁止されています。
バーチャルオフィスでは、多数の法人が同じ住所を本店にします。自宅など固有の住所を使う場合より、商号が重複しやすいので、定款をつくる前に調べてください。調査に対応してくれる事業者もあります。
2. 事業者が撤退すると、移転登記が必要になる
住所を借りている以上、そのサービスが終われば住所を変えることになります。会社の住所が変われば本店移転の登記が必要で、費用も発生します。運営年数に加えて、運営会社の会社概要や、サービス終了・住所変更のときの対応方針を確認しておきたいのは、このためです。
3. 法人口座の審査で、事業の実態を確認される
バーチャルオフィスだから開設できない、という決まりはありません。ただし審査では事業の実態を確認されます。何を準備しておくとよいかは、法人口座と融資審査についてまとめた記事で整理しています。
銀行の審査で確認される内容と、その法律上の根拠は、バーチャルオフィスは怪しいのかを条文から整理した記事で詳しく扱っています。
そもそも法人口座が使えるようになるのは登記が完了してからで、住所を含めて、申込画面で聞かれるものの一部は登記より前に決まってしまいます。何をいつまでに決めておくかは、5つの金融機関の手続きの重さとあわせて別の記事で整理しました。
4. 許認可が必要な業種は、事務所の要件を先に確認する
労働者派遣事業、職業紹介事業、建設業、古物商などでは、許可の種類や営業のしかたに応じて、事業所の位置・構造・設備や、営業所としての実態が審査されることがあります。住所を借りただけでは要件を満たせない場合があるので、該当しそうな業種は、監督官庁の要件を先に調べてください。
自宅で登記する場合と、何が違うか
代表者個人の住所が登記される点は、どちらを選んでも変わりません。違うのは会社の住所、費用、郵便物の受け取り方、そして本店移転が必要になる場面です。
| 項目 | 自宅で登記 | バーチャルオフィスで登記 |
|---|---|---|
| 住所の利用料 | 原則かからない | 登記できるプランで月額1,000円ほどから |
| 会社の住所 | 自宅の住所が登記される | 借りた住所が登記される |
| 代表者個人の住所 | 登記される | 登記される(変わらない) |
| 郵便物 | 直接届く | 転送を使う場合は受け取りまで時間がかかる |
| 本店移転の登記が必要になる場面 | 引っ越しにあわせて本店も移すとき | 契約終了や事業者の撤退で住所が使えなくなったとき |
賃貸は契約書、分譲マンションは管理規約を確認する
自宅で登記する場合、まず賃貸物件なら賃貸借契約を、分譲マンションなら管理規約を確認します。住居として借りている物件を事業所として使えるかは、契約や規約の内容によって変わります。一律に可否が決まる論点ではないので、必要なら貸主や管理組合にも確認してください。
引っ越しても、登記の住所は自動では変わらない
自宅を本店として登記していて、引っ越しにあわせて会社の本店も移す場合は、本店移転の登記が必要になります。登録免許税は、国税庁の税額表で本店または支店の移転登記が1箇所につき3万円と定められています。
ただし本店所在地を管轄する登記所が変わる移転では、旧所在地と新所在地それぞれ宛ての申請書をつくり、旧所在地を管轄する登記所へ同時に提出します(商業登記法51条)。法務局の記載例を見ると、この2通にはそれぞれ3万円と書かれています。管轄をまたぐ移転は、原則として合計6万円です。
加えて、代表者個人の住所が変わったときは、その変更の登記も必要です(資本金1億円以下の会社は申請1件につき1万円)。会社の住所は借りていても、代表者の住所は自分のものです。バーチャルオフィスを本店にしていても、代表者が引っ越せばこの登記は発生します。
会社の本店所在地は、あとから気軽に変えられるものではありません。移転登記の費用と手続きは、会社設立後にやることを整理した記事で詳しく扱っています。
住所を決める前に確認する3つのこと
- 登記に対応したプランか
住所利用のみのプランでは登記に使えないことがあります。登記が別料金かどうかもあわせて確認します。 - 代表者個人の住所をどこまで見せるか
バーチャルオフィスの住所は代表者の住所には使えません。証明書に出る範囲を市区町村までに留めたい場合は、株式会社を選び、代表者の住所が登記事項になる登記と同時に申し出ます。引っ越して住所変更の登記をするときも、そのつど申し出ます。 - 数年後も使える住所か
移転には登記費用がかかります。運営年数、運営会社の会社概要、サービス終了や住所変更のときの対応方針を確認します。
個人事業主として開業する場合は、法人の設立登記がないため論点が変わります。開業届の住所欄や納税地の扱いは、別の記事で整理しています。
まとめ
バーチャルオフィスの住所で法人登記はできます。会社法に、本店の所在場所を実際の作業場所とする決まりがないためです。ただし許認可や契約によっては、実在する事務所が必要になる場合があります。
一方で、登記簿に載る住所は2つあります。バーチャルオフィスの住所を使えるのは会社の住所だけで、代表者個人の住所は自分が住んでいる住所を登記します。株式会社であれば、代表者の住所が登記事項になる登記と同時に申し出ることで、登記事項証明書などに出る範囲を市区町村までに留められます。合同会社は対象外です。この措置を使うと、融資や不動産取引の場面で確認書類が増えることがありますし、本店の実在性が認められない場合などには職権で措置が終わることもあります。
会社の本店所在地は、決めたあとに変えると登記費用がかかります。住所を見せない利点と、そのぶん増える手続きを見比べて、設立の前に一度考えておくと、後戻りが少なくなります。
どの事業者を選ぶかは、料金と登記の条件を比較した記事にまとめています。
出典:e-Gov法令検索「会社法」
出典:e-Gov法令検索「商業登記法」
出典:法務省「代表取締役等住所非表示措置について」
出典:国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」
出典:法務省民事局「代表取締役等住所非表示措置について」(制度説明資料・令和6年8月)
出典:法務局「商業・法人登記の申請書様式」(株式会社本店移転登記申請書・管轄登記所外移転の記載例)
この記事を書いた人
「経営を、もっとシンプルに。」を掲げるミニマル社長の編集部です。運営は合同会社スネッケ(2022年設立)。起業当初は代表がひとりで立ち上げ、いまはWebサイト制作を本業に、SEO・広告などのWebマーケティング全般、近年はAIの活用まで実務で扱っています。基本的な知識や情報を整理して伝えるだけでなく、自分たちが実際に使ってみて分かったこと、つまずいたこと、その上で何を選んだのかまで、できるだけそのまま書いていきます。

