会社をつくると、自分の給料にあたる「役員報酬」を決めることになります。ところが調べ始めると、いくらにすればいいのかがなかなか見えてきません。
この記事では、役員報酬を決めるときに知っておきたい制度の輪郭と、税務を調べているうちに見落としやすい社会保険について整理します。
先に立場をはっきりさせておきます。編集部は税理士ではありません。金額の正解は出しませんし、細かい要件の判断にも踏み込みません。代わりに、制度のおおまかな輪郭と、どこから専門家に相談すべきかをお伝えします。
※この記事は一般情報の整理です(2026年8月時点)。個別の判断は税理士・社会保険労務士、所轄の税務署や年金事務所にご確認ください。
役員報酬は、従業員の給料とは扱いが違う
役員に支払う給与を、法人税の計算上「損金」に算入するための要件が法律で定められています。
まず押さえておきたいのは、役員報酬が従業員の給料と同じようには扱われないということです。
法人税法は、役員に支払う給与のうち、定められた形に当てはまらないものについてこう定めています。
内国法人がその役員に対して支給する給与(中略)のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
法人税法 第34条第1項
「損金の額に算入しない」とは、法人税を計算するときに、その金額を所得から差し引けないということです。その分、法人税の計算上の所得が大きくなります。
ここで扱っているのは「損金に算入するための要件」であって、「金額を変更できるかどうか」ではありません。報酬の額そのものは、必要な手続きを踏めば会社が変更できます。ただし、その改定が要件を満たさない場合に、損金に算入できない部分が生じます。この記事は、その区別を前提に書いています。
国税庁は、役員給与のうち定期同額給与・事前確定届出給与・一定の業績連動給与のいずれにも該当しない額は損金に算入できないとしています。ただし、いずれかに該当する場合でも、不相当に高額な部分は損金に算入されません。一人で会社を運営する場合、一般的に使われるのは1つ目の定期同額給与です。
それぞれの要件は細かく定められています。該当するかどうかの判断は、国税庁の資料と税理士に確認してください。
税務には「決める時期」の区切りがある
定期同額給与の通常改定として損金算入が認められるのは、原則として事業年度の開始から3か月を経過する日までに行う改定です。
役員報酬でよく知られているのが、この時期の区切りです。国税庁はこう定めています。
その事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3か月(中略)を経過する日(中略)までにされる定期給与の額の改定
国税庁「No.5211 役員に対する給与」
3月決算の会社なら4月から6月末まで、12月決算の会社なら1月から3月末までが、この期間にあたります。会社をつくったばかりの場合、最初の事業年度が始まる日は設立の日です。
繰り返しになりますが、この期間を過ぎても、報酬の額そのものは会社の手続きで変えられます。変わるのは、損金に算入できる範囲です。
この期間を過ぎたあとの改定にも、認められる場合がある
通常改定の時期を過ぎたあとでも、役員の職務内容の重大な変更にともなう改定や、経営状況が著しく悪化したことなどを理由とする減額の改定は、定期同額給与として認められる場合があります。
ただしそれぞれに細かい要件があり、当てはまるかどうかは個別の判断になります。たとえば経営状況の悪化による改定については、国税庁が次のように注記しています。
法人の一時的な資金繰りの都合や、単に業績目標値に達しなかったことなどはこれに含まれません。
国税庁「No.5211 役員に対する給与」
「思ったより儲からないから下げる」がそのまま通るわけではない、ということです。実際に改定を検討する場面では、国税庁の資料を確認したうえで税理士に相談してください。
設立直後は登記や口座開設、届出が重なります。手続き全体の流れは、別の記事で期限つきで整理しています。
税務を調べているうちに、社会保険を見落とす
役員報酬を調べると税務の情報が中心になりますが、社会保険は別の役所が扱う別の手続きです。
この記事でいちばんお伝えしたいのが、ここです。
「役員報酬 決め方」で調べると、出てくるのは損金や定期同額給与といった税務の解説が中心になります。書いているのも会計ソフトの会社や税理士事務所です。
その結果、税務の話を理解した時点で、決め方が分かった気になってしまうということが起こります。編集部自身がそうでした。
編集部がつまずいたのは、社会保険の側だった
編集部が起業前に想像できていなかったのは、社会保険料の納付が毎月あり、加入時や報酬が変わったときには届出も必要になることでした。
自分自身は無報酬でしたが、加入要件を満たす従業員を雇って給与を支払うようになった段階で、手続きが必要になりました。被保険者資格の取得届、毎月の保険料の納付、報酬が変わったときの届出。法人税の確定申告が原則として年に一度なのに対し、健康保険・厚生年金保険では保険料を毎月納付し、必要なときに届出を出します。
社会保険には、社会保険の「決める時期」がある
健康保険・厚生年金保険の保険料は、報酬をそのまま使うのではなく、報酬を一定の幅で区分した標準報酬月額をもとに計算されます。そしてこの標準報酬月額にも、決め直す仕組みがあります。
- 定時決定(算定基礎届)
事業主は原則として、7月1日現在の被保険者について4月・5月・6月の報酬月額を届け出ます。提出期限は毎年7月10日まで(10日が土日の場合は翌営業日) - 随時改定(月額変更届)
昇給や降給などで固定的賃金に変動があり、要件に該当した場合は、定時決定を待たずに標準報酬月額が改定されます
ここが、税務と社会保険がつながる場所です。事業年度の入口で役員報酬を改定すると、それは社会保険から見れば固定的賃金の変動にあたります。税務の手続きを終えたつもりでも、社会保険の側の届出が残っている、ということが起こり得ます。
随時改定に該当するかどうかには要件があり、報酬を変えれば必ず届け出るというものではありません。該当するかどうかは、日本年金機構の資料と年金事務所で確認してください。
一人社長は、会社負担分も資金計画に入れておく
もうひとつ、一人で会社をやっている場合の特徴があります。
厚生年金保険の保険料率は18.3%で固定されており、事業主と被保険者が半分ずつ負担します。健康保険料はこれとは別にかかり、協会けんぽの保険料率は都道府県支部ごとに算出されます(令和8年度の平均は9.9%)。
この「折半」ですが、一人社長の場合、事業主にあたるのは自分の会社です。被保険者の負担分は役員報酬から引かれ、事業主の負担分は会社が支払います。負担する主体は別ですが、一人で会社をやっていると、個人の手取りと会社の資金繰りの両方に効いてきます。
協会けんぽの場合、実際の保険料は標準報酬月額の等級、加入する都道府県支部、年齢などによって変わります。令和8年4月分からは子ども・子育て支援金も加わります。最新の保険料額表で確認してください。
編集部は「無報酬」から始めた(ただし条件があります)
編集部は立ち上げ期の役員報酬を0円にしました。ただし本業の収入が別にあったからで、誰にでも勧められる選択ではありません。
正直に書きます。編集部は、立ち上げ期の役員報酬を0円にしました。なお、同じ事業年度の途中から報酬を支給する場合も、さきほどの定期同額給与の要件が関係します。
理由は単純で、会社にできるだけ多くのキャッシュを残すことを最優先の課題にしていたからです。報酬を取れば、その分だけ会社の手元資金は減ります。事業がまだ立ち上がっていない時期に、そこを削りたくありませんでした。
選べたのは、生活費の出どころが別にあったから
ただし、これは条件がそろっていたから選べた話です。当時は本業の仕事を持ちながら、副業として法人を運営していました。生活費は本業でまかなえていたので、会社から報酬を取る必要がなかっただけです。この前提がない場合、無報酬では生活が成り立ちません。
社会保険の扱いについても、報酬の有無が関係します。厚生労働省は、法人の役員について「法人から労務の対償として報酬を受けている者」を被保険者としてきました(昭和24年の通達)。
さらに令和8年3月18日には、判断の基準が改めて明確化されています。
① その業務が実態において法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供であるか、② その報酬が当該業務の対価として当該法人より経常的に支払いを受けるものであるか を基準として実態を踏まえ総合的に判断する
厚生労働省「法人の役員である個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いについて」(令和8年3月18日)
経常的に経営へ参画していることと、その対価として報酬を経常的に受けていること。この両方を基準に、実態を踏まえて判断されるということです。通知では、どちらかに該当しないと考えられる場合は基本的に適用がないとされています。無報酬の場合を含め、自分がどう扱われるかは年金事務所に確認してください。
繰り返しますが、無報酬をおすすめしているわけではありません。生活費の出どころが別にあるかどうかで、選べるかどうかが決まります。自分の条件に当てはめて考えてください。
どこから専門家に相談するか
制度のおおまかな輪郭は自分で押さえられます。金額の検討や、個別の要件に自社が当てはまるかどうかは、専門家に相談する領域です。
ここまでの説明は、条文と公的資料をもとにした制度の輪郭です。細かい要件や、自分の会社に当てはまるかどうかの判断は含めていません。
相談先は、内容によって分かれます。
- 税務
損金算入の要件、改定が認められるかどうか、金額の判断は税理士へ - 社会保険
加入や届出、標準報酬月額の改定は社会保険労務士や年金事務所へ
編集部が税理士に相談したのは、設立の前だった
参考までに、編集部の判断を書いておきます。
税理士に相談したのは、法人を設立する前でした。個人事業主としては数年やっていて、会計ツールを使って自分で処理できていました。ただ、法人の設立も、設立後の税務も経験がありませんでした。
調べれば調べるほど、法人の税務は個人事業主のときとは難易度が違うと感じました。会計ツールで足りていた範囲を超えている。そう判断して、設立前に相談しました。
「自分でできる範囲を超えたと感じたら相談する」。相談を始める基準としては、それで十分だと思っています。
相談は、設立前の一度きりではなかった
実際に役員報酬を決めるときにも相談に乗ってもらい、何をどう判断すればいいのかがはっきりした状態で、そのあとの手続きまで迷わずに進めることができました。そして役員報酬は、一度決めて終わりではありません。事業年度の入口ごとにまた向き合うことになりますが、毎年その時期が来るたびに同じように相談していて、いまも安心して進められています。
そのうえで、編集部の実感を書いておきます。一人で法人を運営するなら、税理士をつけることをおすすめします。税務も社会保険も、自分で調べれば制度の形は分かります。この記事もそこまでは書きました。ただ、調べて分かることと、自分の会社について判断していいのかどうかは別です。
相談できる相手がいるだけで、決めるまでの速さも、決めたあとの落ち着き方も変わりました。一人でやっていると、そもそも相談する相手がいません。そこを埋められるという意味でも、意味のある支出だと考えています。
当メディアを運営する合同会社スネッケでは、ここで書いた相談を実際にお願いしている顧問税理士をご紹介できます。一人法人や小規模の会社を多く見ている税理士で、費用のことも含めて相談できます。「まず誰に聞けばいいのか分からない」という段階でも構いません。お問い合わせフォームからご連絡ください。
日々の記帳や申告をどう回すかは、会計ツールの選び方から整理しています。
まとめ
役員給与は、従業員の給与とは税務上の扱いが異なります。金額そのものは会社の手続きで変更できますが、法人税の計算上、損金に算入するには法人税法の要件を満たす必要があります。
- 扱いが違う
損金に算入するための要件が法律で定められています。額そのものは会社の手続きで変えられます - 時期の区切りがある
定期同額給与の通常改定として認められるのは、原則として事業年度の開始から3か月を経過する日まで。設立した年は設立の日が起点です - 社会保険は別の領域
担当する役所も、期限の入り方も違います。標準報酬月額には定時決定と随時改定という仕組みがあります - 一人社長は会社負担分も見込んでおく
被保険者の負担分は個人の手取りに、事業主の負担分は会社の資金繰りに影響します
最後にもう一度
そして、税務の情報だけで判断しないでください。役員報酬を調べると税務の話が中心になりますが、社会保険は別の役所が扱う、毎月動き続ける領域です。
個別の要件と金額については、税務は税理士へ、社会保険は社会保険労務士や年金事務所へ確認しながら決めてください。
役員報酬を決める時期は毎年やってきます。一人で法人を運営するなら、そのたびに相談できる相手がいる状態にしておくことをおすすめします。
出典:e-Gov法令検索「法人税法」
出典:国税庁「No.5211 役員に対する給与」
出典:日本年金機構「厚生年金保険の保険料」
出典:日本年金機構「定時決定(算定基礎届)」
出典:日本年金機構「随時改定(月額変更届)」
出典:全国健康保険協会「令和8年度保険料率のお知らせ」
出典:厚生労働省「法人の役員である個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いについて」(令和8年3月18日 保保発0318第1号・年管管発0318第1号)
出典:厚生労働省「法人の代表者又は業務執行者の被保険者資格について」(昭和24年7月28日 保発第74号)
この記事を書いた人
「経営を、もっとシンプルに。」を掲げるミニマル社長の編集部です。運営は合同会社スネッケ(2022年設立)。起業当初は代表がひとりで立ち上げ、いまはWebサイト制作を本業に、SEO・広告などのWebマーケティング全般、近年はAIの活用まで実務で扱っています。基本的な知識や情報を整理して伝えるだけでなく、自分たちが実際に使ってみて分かったこと、つまずいたこと、その上で何を選んだのかまで、できるだけそのまま書いていきます。

